おひとり様のおじ・おばの相続で気をつけること
東京都渋谷区にお住いの美奈子さんは50歳。大阪府高槻市に住む姉と二人姉妹です。この姉妹は20年前に両親を相次いで亡くしましたが、その後、母の姉である伯母の介護を手伝うことに。伯母は当時80歳で茨城県常陸太田市で一人暮らしをしていました。村のコミュニティでも重鎮の伯母は、畑仕事も草刈も近所の人たちに助けてもらいながらこなせるほど、お元気でした。
■介護認定を拒む伯母
伯母さんは、介護認定については頑なに拒否をしていました。地方の高齢者によくあることなのですが、自力で頑張りすぎてしまうところがあります。伯母さんも「介護をしている家なんかはこの村には1軒もない。そんなことしたら、恥ずかしくて外も歩けない」と言い張るのです。自分の親ではないですし、弟である叔父さんも「好きな様にさせろ」というので、認定は見送りました。その代替案として、美奈子さんと姉は月に1回ずつ、食料を宅配便で送付。美奈子さんは仕事の合間をみて2~3ヶ月に一度は茨城に通いました。伯母さんも年に2回ほど、高速バスで東京に上京し、買い物などを楽しむなどエンジョイできていたようです。
■伯母92歳の際に来た“転機”
転機がきたのは、伯母さんが92歳の時。週に数回、美奈子さん姉妹は伯母さんに電話連絡をしていましたが、1週間ほど電話にでませんでした。この伯母さん、以前にも近所に遊びに行き、電話になかなかでないことがありましたが、こんなに長い期間連絡がつかないのは初めて。神奈川県秦野市に住む叔父に「伯母ちゃん大丈夫かな?」と電話しても、「いつものことで出かけているだけだろう」と真剣に向き合ってくれません。美奈子さんは思い切って、弾丸で常陸太田まででかけました。
伯母の自宅の10メートル手前から、大音量のTVの音が聞こえ嫌な予感。何度、扉を叩いても返事がありません。鍵もかかっています。電話もかけますがでません。1時間ほど経ち、やっと出てきた伯母さんは、髪の毛は膝近くまで伸びやせ細り、妖怪の様な姿になっていました。伯母さんは耳が遠くなり、TVのボリュームを上げすぎて、電話の音が聞こえていなかったようです。そして、家の中からは異臭が。吐き気をもよおす程強力でした。そして、足の踏み場もないほどの荷物の山。愕然としてしまったそうです。
■遠隔介護の落とし穴
「このままでは伯母は大変なことになる」直感的に感じた美奈子さんは、叔父さんとお姉さんに連絡をして、今後の対応を一任してもらいました。その足で美奈子さんは、市役所に相談に行きました。地域包括支援センターを紹介され詳細を話し、翌日伯母さんの家に同行してもらったのです。担当者は一瞬で状況を掴んでくれましたが、その日はそれ以上のことはできないので、まずは病院へ介護認定に行くことと、ヘルパーさんを入れようということになりました。
美奈子さん曰く「それまで電話では、毎日ご飯をおいしく食べていることや、宅配したお肉が美味しいと喜んでましたが、全てうそ。冷蔵庫には大量の肉が腐ってました」とのこと。お姉さんが送ったお弁当も台所に放置、虫が湧いていたそうです。「最近伯母は“甘いものが食べたい”と度々言い、姉共々送っていましたがどうやらそれを主食としていたようなんです。私には“手伝いに来てくれた人のお礼も必要”と言ってました」遠隔介護の限界でしょう。この時、美奈子さんは多忙で、半年くらい伯母さんの元へ行けなかったとのことでした。
■ヘルパーの拒否
一度美奈子さんは帰京し、その間に、ケアマネージャーがヘルパーさんと一緒に伯母さんの自宅へ出向きました。しかし伯母さんは「私は何でも自分でできます」と言い放ち、ヘルパーさんを受け入れず仕舞い。2~3週間後に、美奈子さんが再度伯母さんの家へ出向き、ケアマネジャーと病院へ。「伯母さんの性格から、しばらく病院へ入院させた方が良い」とのことになり、栄養失調で入院させたそうです。その際にも、伯母さんが病室へ入る際に、先生に話をして「伯母は元気でなんでも一人でできる、体調も万全と言いますが、そんなことはありません」と伝えておいたそうです。
事前に高齢者の状況を医師にしっかり伝えておくのは必要なことでしょう。その後3ヶ月入院をしましたが、病院から退院願いがきて、伯母さんには「リハビリだから」と言い施設に入所。その時、すでに認知症予備軍の状態でした。
■空き家になってしまった自宅
美奈子さんは、友人からも認知症の恐ろしさを聞き、空き家問題についても色々と調べていました。一度、叔父さんに「このままでは、伯母の家は空き家になるから、伯母がボケないうちに売却をするなり、名義変更をするなりしないと大変なことになるよ」そう叔父さんに伝えましたが、叔父さんは一切聞き入れず「そんなことはない」の一点張りだったとか。
それから数か月後、伯母さんは会話こそできるものの、名前や住所・生年月日も言えなくなりました。その時やっと叔父さんは、家屋の名義変更をしようと司法書士の所へ行きましたが、司法書士から「病院で認知症検査をするように」と言われたそうです。結果は認知症判定。名義変更は行えず。維持費だけがかかる空き家になってしまいました。
「もっと根気よく叔父に話をすれば良かった」、伯母さんが100歳で亡くなるまでの間、結局その自宅は空き家となりました。親でも言いづらいことを伯母や叔父に言うのは相当大変だったそうですが、問題を先送りにせず、その場で専門家を交えて対応しておけばよかったと後悔されていました。認知症と相続は密接な関係があります。ぜひ、放置せずに相続診断士へ相談をしてください。